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東京高等裁判所 昭和54年(行コ)43号 判決 1980年2月18日

控訴人(原告、選定当事者) 物部長興 外一名

被控訴人(被告) 通商産業大臣

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、「原判決を取消す。本件を東京地方裁判所に差戻す。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人らの主張)

一  控訴人らが原裁判所においてなした提訴は、東京瓦斯株式会社作成の本件「一般ガス供給規程」とそれに対する被控訴人の認可処分との両者の無効確認の請求であるところ、原裁判所は何らの理由を示さずに右の訴えのうち被控訴人に関する部分を分離して何らの審理をしないで判決した。

しかし、独占企業であるガス事業者の作成した供給規程は、ガス事業法によりガス使用者に強制されるのであり、この強制力を付与するのが被控訴人の認可であつて、右供給規程とそれに対する認可とは表裏一体で分離することはできない。控訴人らの訴えが通商産業大臣と東京瓦斯株式会社の両者を被告としたのは、右強制力をもつ供給規程を定める主体が、ガス事業法において被控訴人と前記会社の二つに分れているからであつて、要は右訴えは供給規程に関する一個の訴えであり、複数の請求をするものではない。

従つて、原裁判所がことさらに被控訴人に関する部分を分離したのは全く理由がなく、原裁判所は違法かつ横暴な訴訟指揮によりあえて分離判決を行つたものである。

二  本件各認可処分によつて、本件供給規程が発効し当然に実施されるのであり、しかも右供給規程は前述のとおり強行法規に等しい効力をもつものであるから、右供給規程の実施は本件各認可処分の後続処分というべく、右実施にともない一般ガス使用者は甚しい損害を受け、あるいは損害を受けるおそれがあるのであつて、控訴人らは行政事件訴訟法三六条前段の後続処分により損害を受けるおそれのある者に該当する。

三  本件供給規程の実施により控訴人らは近い将来「一三Aガス」の使用を強制されることになるところ、右ガスは家庭用燃料として使用が困難であり、おびただしい事故の原因となつているうえ、右ガスへの転換は憲法上保障された各種の基本的人権の侵害のもとに強行されているが、これは前記会社が従来の「六Bガス」と甚しく燃焼性能の異なる「一三Aガス」を既設の限られた導管により供給しなければならないことに由来するものであり、またこれを避けるため「一三Aガス」用の導管を設けることは、人口密度の極度に高い都市地域では大混乱をひきおこし、更に想像もつかない程の莫大な設備投資を要することは明らかであつて、控訴人らは同法三六条の当該処分の無効の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者に該当する。

四  そして、本件供給規程の実施はきわめて短期間のうちに強行されるのであり、民事訴訟法に基づく仮処分により右実施の停止を求めることは許されないから、ガス転換工事実施後遅くとも三日後には新種のガスを流し込まれてその使用を余儀なくされ、かくていつたん新種のガスを消費すれば、商法または商慣行上新種のガスの供給・受給について前記会社と控訴人らとの間に契約が成立したことになるから、控訴人らが前記会社に対し変更前のガス供給規程に基づく権利義務関係が存在することの確認を求める訴えを提起しても敗訴になることは明らかである。

従つて、控訴人らは行政事件訴訟法三六条により本件無効確認の訴えを提起することができるというべきである。

五  札幌市民が北海道電力株式会社の電気供給規程による電気料金の値上げを不当として旧料金による支払を行つていたところ、同会社が新電気料金の支払いを求めて札幌簡易裁判所に提起した事件において(同裁判所昭和五一年(ハ) 一三四一号~一三五一号・一五二六号~一五二八号)、同裁判所は「行政事件訴訟として紛争解決の方法があるのにこれを避けて、一般民事訴訟で行政処分の無効・取消を先決問題として処理することは、いたずらに多数の紛議を醸成する結果となり不当で許されない」旨判示しているのであり(昭和五三年一月一九日判決、判例時報九〇二号一〇〇頁以下)、この判例からいつても本件訴えは適法である。

理由

当裁判所は原裁判所と同旨に判断するものであり、その理由は次に付加するほか、原判決の理由のとおりであるから、これを引用する。

(付加)

一  数個の訴につき口頭弁論を分離し又は併合することは裁判所の訴訟指揮権に属し、その裁量により行われるものであるところ、控訴人の被控訴人に対する本件認可処分の無効確認の請求と東京瓦斯株式会社に対する一般ガス供給規程の無効確認の請求とは別個の請求であつて、原裁判所が被控訴人に対する請求につき口頭弁論の分離を命じた点には何ら違法はない。

二  被控訴人が東京瓦斯株式会社に対し変更を認可した一般ガス供給規程は、同会社のガス供給条件を定めるものであり、同会社は右に定められる以外の供給条件によりガスを供給することは許されない(ガス事業法二〇条)。従つて、同会社からガスの供給を受ける需用者も変更された供給条件によらざるをえなくなることは控訴人らの主張するとおりである。しかしながら、同会社が右の変更された一般ガス供給規程に基づきガスを供給することが被控訴人の認可処分に続く行政処分ということはできず、右の事実をもつて、控訴人らは行政事件訴訟法三六条にいう「当該処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者」と認めることはできない。

また、控訴人らは、変更された右供給規程の効力を争つているのであるから、所論のように新種のガスの使用を余儀なくされたとしても、右新種のガスの受給を承認したものとみるのが当然であるとはいえないのであつて、右使用のために、本件認可処分の無効を前提として、右会社に対する変更前のガス供給規程に基づく権利義務関係の存在することの確認を求める訴え等が必ず敗訴になり、右の訴えによつては目的を達することができなくなるものとはいえない。従つて、控訴人らは、同法三六条にいう「現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」に該当するとは認められない。

以上のとおりであるから、当審における控訴人らの主張を考慮しても、控訴人らは本件認可処分の無効確認を求めるにつき同法三六条の定める原告適格を有しないものといわなければならない。

よつて、本件控訴は理由がないから棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 外山四郎 海老塚和衛 清水次郎)

選定者目録<省略>

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